美徳のよろめき

 

美徳のよろめき (新潮文庫)

美徳のよろめき (新潮文庫)

 

 ふと、この小説のことを思い出したので読み返してみました。最後に読んだのは多分20年近く前(!)です。
今風にいうならば貞淑なセレブ妻が不倫に走る話。美しい文章で、小難しい調子で綴られていますが、要するに内容はそういうことです。
何度か読み返してはいるものの、はじめてこの小説を読んだのは高校生の頃、私はサスペンス好きな母と一緒に土曜ワイド劇場を見て育った(頭の中だけは)早熟な娘だったので、あの手のドラマに登場する上流階級のマダムやクラシカルなお屋敷を想像して読んでいました。ヒロインの倉越夫人が身につける焦げ茶のシルクのスリップ(ピンクなどパステルカラーでなく焦げ茶というのがポイント高い!)やジャンパトゥのジョイ、そもそもタイトルの“よろめき”とか、随所に散りばめられた時を経ても色褪せない高貴なエレガンスに惹かれましたが、どうにもこうにも気持ち悪い箇所があって、好きになれない小説でした。三島の小説は他にも生理的に絶対ダメ!と嫌悪感を抱いてしまうものがあるのです(それでも嫌なことが判っているのに時々思い出して読みたくなってしまうのですが…)。

今回もやっぱり気分が悪くなったので、ここにこれ以上書くのはやめておきます。ただ、妊娠したヒロインがフライドポテトを好きになったというくだりには笑ってしまいました。妊婦はマックのポテトが好きと言われて、私もよく食べたけれど、この時代でも同じなのですね。

ところで、何故ある日突然この小説を思い出したのかというと、ひとり妻家房でランチをしたときのこと。

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百貨店内のレストランらしく、裕福そうな女性客で溢れていた中、隣のテーブルのリッチなオーラを醸し出した黒田知永子さん風の綺麗な50代主婦ふたりがモリモリ食べながら大きな声で閉経だの更年期だのについて話をしていたのです。それを見て辟易としつつ、『美徳のよろめき』の中であけすけな話をする上流夫人たちを思い出したという訳なのでした。